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004 2008.4.3 雛の町の遠来の客・旧暦の雛祭 奈良県高市郡高取町土佐にて

遠来の客が高取の町にやって来る。何千年も遠い昔、栄えた町は、現世から忘れ去られたように静かに眠っている。雛を展示し、遠来の客を招くことを初めて20年が過ぎた。怒涛のような勢いでやって来て、人々を不幸のどん底に陥れた大東亜戦争、戦後、昭和の歴史が終わり、半世紀が過ぎている。ある日、町で見た一対の雛の美しさに見惚れてしまった。

その雛が500年もの間、何を見、何を聞いたのだろう。どんな高貴な姫に出会ったのだろう。もしかしたら、ずっと、遠くの広大な屋敷の大広間に飾られていたのだろうか、あるいは、商家の店先に飾られていたのだろうか。年月が過ぎ去っていくうちに姫は、嫁ぎ、子を生み幸せな生涯を送り、年老いてこの世を去り、娘に、孫に、曾孫に伝えられた匠の心が通った人形。                       

この美しい姿の雛たち、でも、なぜこの雛たちはここに飾られて居るのだろう。その一族は、絶えてしまったのだろうか。歴史の底に見え隠れする満天の星の数のような出来事の中で雛たちは災害や戦火から逃れてここに存在している。

多くの人の手を経て、売買され審美眼を持つ主に買われここに居る。しかし、雛たちは悲しい顔もせず黙して語らず、今日も輝いた顔で遠来の客を迎える。

ここにあった日本一の高取城が朽ち果てたように 何時かは、朽ち果てるであろうに。

高取の町でそんな雛の表情に囲まれて、ふと思い出した。安土の城の頂上で信長が眺めていた 琵琶湖、天下を論じながらセミナリオでポジタティーフ・オルガンを聴いていたこの城の首長が、2週間後に自害しなければならないことになるとは、予想だにしなかっただろう。この高取城も信長によって壊されたという。

陶工の皿に描かれた3千枚のさつきの花弁がウィンドウの中で青空の色を反射して輝いていた。旧暦の雛の祭りは遠来からの客で埋まっていた。私は、姉や妹の段飾りの春の日、皆の眼を盗んで飲んだ白酒のほろ苦さを思い出し口の先で呟いてみた。

灯をつけましょ雪洞に

   日出太の下手な綴方・詩作・もろもろのエッセイ目次
  トップ頁 作成:2013/02/23 (土) 19:00:14/修正:2013/03/09 (土) 20:30:10