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062 2008 「奈良の昔話」の著者は奈良の生き字引増尾正子さん

 夏のある日、友人たちに水飴を送ろうと「砂糖傳」に入った。                                                               真夏のせいか奈良町一帯は森閑として人っ子一人通らず細い路地のどこにも人影がなかった。いつも顔見知りの女店員さんに
 「水飴を何人かに送りたいので、送り状を下さい。」
 同行の友人も、
 「家に買って帰ろう」
と、包んでもらっていた。
 その時、奥から増尾さんが客を送りながら店頭に出ていらっしゃって、それが、私と増尾さんの初対面だったのである。
 私は、奈良町に来る度にこのお店に寄っていたから、すでに店頭に置いてある女性誌で増尾正子さんの写真や紹介記事に触れていた。
 ああ、この方が増尾さんなのだと納得していた。
 そして、美しいご婦人は私のいくつかの質問に対して、お店と奈良町の発祥の事、歴史の事を詳細に話されたのである。
 2008102日号の「サライ」でも巻頭対談で、考古学者の猪熊兼勝氏との対話されていて、この対談の記事から見られるように考古学の専門家猪熊氏と歴史をわかりやすく紐解き明快に話されている。
 さらに奈良の一般的な歴史だけではなく、考古学的な見地からの対話は非常に興味深く、奈良町の規範となっている元興寺の位置、町並みの展開の事、民話の中からの時代考証、交通、商業政策、食の変遷、そして、最後は仏教による精神性の問題提起をされている辺り自家薬籠中の物かも知れないが、日々の興味や好奇心がなければ、そして、諸物に対する愛情がなければこのような博学ではいられないと思う。
 要するに学問は、日々、情報を積み上げること、脳の中のコンピュータに如何にデータベースを貯めるかは、増尾さんのメモの詳細な記録が基となっているのだろう。
 ご先祖が、その時代、たいへん高価で希少価値の砂糖という商品を見つけ、今の時代を想起して商いの基礎を築かれた先見性は、日常の情報の蓄積があったと思うのは余りにも飛躍と言われるかもしれないが、先見性と情報収集は「砂糖傳」の代々の血の中に流れているに違いないし、考えてみれば砂糖は影の存在、出来上がって完成されたものの、性情の良し悪しに深く関わるものであってまったく表に出ない存在なのである。飴に至っては。カステラなどのしっとり感を持たせるもので、恰も保湿剤のような影の存在なのである。佃煮の照り、小豆の粘りなど飴の働きはすこぶる多い。
 このような影で力を発揮することは、増尾さんの昔話や旅行記の積み上げによって、失礼な申しようかも知れないが、奈良の文化を影で支えている砂糖や飴のように非常に重要なことである。
 「早崎さんは、写真がたくさんあって仏教のことをたくさん書いたものがいいでしょう」
と、いただいたのがこのVol.4「旅Vol.4〜玄宗三蔵の足跡を訪ねて」だったのである。
 私などは、玄宗三蔵という題名を聞くと、中国の四大奇書のひとつ、明 出身の呉承恩作「西遊記」を彷彿とする。玄奘三蔵と孫悟空、猪八戒、沙呉浄が100種の魔物を倒してついには天竺で経文を授かる。壮大稀有な物語である。シルクロードについては、生前、團伊玖磨さんから良くお聞きした。
 井上靖氏との砂漠で出会った感動についても「パイプのけむり」に詳細に記されている。
 シルクロードの旅をどのようにされたかはこの本に詳らかに記されているが、この本だけではなくすべてを読んでいないから、その他の旅行記の数多くある本も綿密に読んでここに紹介をしようと思っている。
 何年もの長期間の旅、長年、書きすすめられた文集は、誰も為し得ない増尾さんの偉大なお仕事だと思う。昔、エジプトの王が多くの民を駆使して構築したピラミットは大衆の努力や英知によるものだが、これは、個人が構築した大きなピラミッドだと確信する。さらに、後世の為にも是非、末永く続けて戴きたいとお願いしたい。(早崎日出太)

   日出太の下手な綴方・詩作・もろもろのエッセイ目次
  トップ頁 作成:2013/02/23 (土) 19:00:14/修正:2013/05/20 (月) 15:17:23